質問主意書
https://www.sangiin.go.jp/japanese/joho1/kousei/syuisyo/108/syuh/s108013.htm
第108回国会(常会) 1987年4月
質問第一三号
公的機関における元号の使用に関する質問主意書
右の質問主意書を国会法第七十四条によつて提出する。
昭和六十二年(1987年)四月一日
野田 哲
参議院議長 藤田 正明 殿
公的機関における元号の使用に関する質問主意書
本年三月三十日、広島県教育委員会は、卒業証書の発行年月日を西暦で表記して交付した県内五十四校の県立高等学校及び養護・ろう学校の学校長に対し処分を行つたという。この問題は、憲法上及び法令上の重大な内容を含んでいると考えられるので、以下のとおり質問する。
一 広島県教育委員会が行つた処分の具体的内容等について以下の事項を調査し、その結果を明示されたい。
1 処分を受けた者の役職名、氏名及び処分の種類。
2 処分が文書によつて発令されたのであるならば、その文書内容の全文。
3 処分に当たつての根拠法令。
4 同教育委員会が、卒業証書及びその他学校等において使用・交付される公的文書の様式について、元号を使用すべきことを定めた規則等があるならば、その規則等の内容。
5 処分発令前後に、同教育委員会が行つた指導、声明等の経過と内容。
二 今回の処分をめぐる背景について
1 今回の処分に当たつて、事前に広島県教育委員会から意見を求められるなど、政府に何らかの打診があつたかどうか。あつたとすれば、いつ、誰から、どのような形で、いかなる内容の打診があり、それに対していつ、誰が、いかなる形と内容での回答を行つたか、明らかにされたい。
2 政府はこれまでに、全国各都道府県ないし各市町村の教育委員会に対し、教育委員会ないし各種各級の学校等の教育機関が使用・交付等を行う公的文書の様式について、元号の使用に言及した通達、指示、指導等を行つたことがあるかどうか。あるとすれば、その内容を明らかにされたい。
3 広島県教育委員会以外の都道府県及び市町村の教育委員会において、公的文書について元号を使用すべきとの規則等を定め、または指導を行つている教育委員会があるならば、その都道府県名及び市町村名、並びに規則等と指導との別を調査し明示されたい。
4 広島県以外の都道府県または市町村において、卒業証書その他の公的文書に西暦を使用したことをもつて処分を行つた教育委員会の有無及び、あるとするならばその行政区域名を示されたい。
三 公的機関における元号使用の義務の有無と強制力について
1 一般に、国・地方公共団体またはその他の公的機関が元号を使用すべき憲法上の義務は存在せず、また元号使用を強制する法令は存在しないと考えるが、政府の見解を伺いたい。
2 政府は、元号法案の国会審議に際して、「公的な機関の手続なりあるいは届け出等に対しましては、行政の統一的な事務処理上ひとつ元号でお届けを願いたいという協力方はお願いをいたします。しかし、たつて自分は西暦でいきたいという方につきましては、今日までと同様に、併用で、自由な立場で届け出を願つてもこれを受理すると、そういう考えでおるわけでございます。」(一九七九年四月二七日、参議院本会議における三原朝雄国務大臣の答弁)、また、「従来、戸籍などの諸届けの用紙に、不動文字で「昭和」と、こういうことを刷り込んでおることは事実でございます。これは申請者に便宜を与える、便宜を図るというだけの趣旨のものでございまして、強制するとか拘束するとかという趣旨ではございません。……この辺につきましては誤解が起こらぬように、強制する、拘束するものではないという趣旨を十分徹底して、行き違いがないようにいたしたいと思つております。」(同、古井喜實国務大臣の答弁)、また、「現在の住民基本台帳、それから印鑑登録のそれらの様式は、いずれもこれは市町村が自主的な判断で定めておるわけでございますが、一般に元号が使用されておりますけれども、これはもう御承知のように従来からの慣行によつて行われ、協力を求めておる、強制するというものでないことは言うまでもございません。」(同、澁谷直藏国務大臣の答弁)、さらに「教科書検定における元号の取り扱いについても、従来から、年代の表示については、教科の目標、内容等に照らし、適切な方法がとられるよう指導している……。」(同、内藤誉三郎国務大臣の答弁)など、公的機関における元号の使用は、あくまで「便宜的」「慣行的」なものであり、したがつて「協力を求める」ことはあつても「強制するとか拘束する」ものではないと、繰り返し答弁している。今日もその立場、見解は不動であると解するが政府の見解を示されたい。
3 右の政府見解によつたとしても、卒業証書は卒業生本人に手渡されるものであつて、公的機関内に保存される一般の公的文書に比べ、年号表示の特定の様式が便宜上求められる度合いは極めて小さいはずである。また、卒業証書が西暦で記載されたとしても、教育上特別に、混乱や問題を惹起するとは考えられない。したがつて、卒業証書に元号の使用を義務づけあるいは強制する合理的理由、法的根拠は存在しないと考えるが、政府の見解を示されたい。
4 卒業証書の年号表示の様式について、たまたま学校長、教師、父母、生徒などの意見、思想、信条等が、教育委員会の期待するところと異なり、西暦が使用されたからといつて、それを強権の発動たる行政処分でもつて処罰するがごときは妥当でなく、元号に関する政府見解の趣旨にも反し、かえつて教育的効果を損なう措置であると考える。したがつて、年号表示について、かかる処分発令を許容するがごとき規則や指導は不適切であり、改廃されるべきだと考えるが、政府の見解を示されたい。
右質問する。
答弁書
https://www.sangiin.go.jp/japanese/joho1/kousei/syuisyo/108/touh/t108013.htm
答弁書第一三号
内閣参質一〇八第一三号
昭和六十二年(1987年)四月十日
参議院議長 藤田 正明 殿
参議院議員野田哲君提出公的機関における元号の使用に関する質問に対し、別紙答弁書を送付する。
参議院議員野田哲君提出公的機関における元号の使用に関する質問に対する答弁書
一について
広島県教育委員会からの説明によれば、次のとおりである。
広島県教育委員会においては、昭和三十七年から広島県教育委員会の公用文に関する規程で元号表示による書式を一般的に定め、事務処理を行つてきたところであるが、元号の使用は同和教育の推進を阻害するという理由から県立学校の卒業証書における年の表示について西暦を使用するよう教職員が校長に迫るという動きがあり、他方、教育委員会規則等で定められた個々の公用文の様式においては、必ずしもすべての公用文の年の表示方法が明確にはされていなかつたため、昭和六十二年一月、教育職員免許状に関する規則、広島県立高等学校学則施行細則など教育委員会規則等の一部改正を行い、個々の公用文の年の表示方法を元号表示とすることを明確にし、関係機関に対し周知を図るとともに、同年二月、県立学校長に対し、卒業証書における年の表示について前記規則等に基づく様式を遵守するよう指示文書を発した。
しかしながら、同年三月の県立学校の卒業式において、五十四校で前記規則等に定められた様式に反する卒業証書が交付された。
このため、広島県教育委員会は同年三月三十日付けで右五十四校の校長に対し、今後は法令等にのつとつた適正な職務の遂行に努めるよう文書訓告を行うとともに、監督責任者である教育長に対し戒告、教育部長及び高校教育課長に対し文書訓告を行つた。
二について
各教育委員会における公用文の年の表示方法等について、政府として特段の指導を行つたことはなく、また、今回の広島県教育委員会における処分についても特段の指導は行つていない。
なお、各教育委員会の実態について詳しくは承知していないが、他の公的機関と同様に、従来から年の表示方法には原則として元号を使用しているものと聞いており、県立学校に関する規則等で元号表示による卒業証書の様式を定めているのは、広島県を含め十二県と承知している。
また、都道府県教育委員会から受けている報告の中では、公用文における元号表示にかかわつて処分を行つた事例はない。
三について
1 国・地方公共団体等の公的機関が元号を使用すべき憲法上の義務はない。
また、現在、国・地方公共団体等の公的機関の内部において事務の統一的な処理のため元号の使用を義務づけるような規則等は別として、国民又は国・地方公共団体等の公的機関に対し、一般に元号の使用を強制する法令は存在しないと考える。
2 国・地方公共団体等の公的機関の事務については、従来から年の表示には原則として元号を使用することを慣行としてきている。したがつて、一般国民から公的機関への届出等においては、公務の統一的な処理のために、書類の年の表示には元号を用いるよう一般国民の協力を求めてきているが、このような考え方は今日においても変わりがない。
3及び4 公立学校の卒業証書は、当該学校の全課程を修了したことを公に証明する公文書であるが、教育委員会がその所管に属する公立学校の卒業証書に関し、年の表示方法を含めその様式を定めることについては、当該教育委員会の権限の範囲に属するものと考える。
また、教育委員会の規則等にその所管する学校の教職員が従うべきことは当然である。
https://www.sangiin.go.jp/japanese/joho1/kousei/syuisyo/108/syuh/s108013.htm
第108回国会(常会) 1987年4月
質問第一三号
公的機関における元号の使用に関する質問主意書
右の質問主意書を国会法第七十四条によつて提出する。
昭和六十二年(1987年)四月一日
野田 哲
参議院議長 藤田 正明 殿
公的機関における元号の使用に関する質問主意書
本年三月三十日、広島県教育委員会は、卒業証書の発行年月日を西暦で表記して交付した県内五十四校の県立高等学校及び養護・ろう学校の学校長に対し処分を行つたという。この問題は、憲法上及び法令上の重大な内容を含んでいると考えられるので、以下のとおり質問する。
一 広島県教育委員会が行つた処分の具体的内容等について以下の事項を調査し、その結果を明示されたい。
1 処分を受けた者の役職名、氏名及び処分の種類。
2 処分が文書によつて発令されたのであるならば、その文書内容の全文。
3 処分に当たつての根拠法令。
4 同教育委員会が、卒業証書及びその他学校等において使用・交付される公的文書の様式について、元号を使用すべきことを定めた規則等があるならば、その規則等の内容。
5 処分発令前後に、同教育委員会が行つた指導、声明等の経過と内容。
二 今回の処分をめぐる背景について
1 今回の処分に当たつて、事前に広島県教育委員会から意見を求められるなど、政府に何らかの打診があつたかどうか。あつたとすれば、いつ、誰から、どのような形で、いかなる内容の打診があり、それに対していつ、誰が、いかなる形と内容での回答を行つたか、明らかにされたい。
2 政府はこれまでに、全国各都道府県ないし各市町村の教育委員会に対し、教育委員会ないし各種各級の学校等の教育機関が使用・交付等を行う公的文書の様式について、元号の使用に言及した通達、指示、指導等を行つたことがあるかどうか。あるとすれば、その内容を明らかにされたい。
3 広島県教育委員会以外の都道府県及び市町村の教育委員会において、公的文書について元号を使用すべきとの規則等を定め、または指導を行つている教育委員会があるならば、その都道府県名及び市町村名、並びに規則等と指導との別を調査し明示されたい。
4 広島県以外の都道府県または市町村において、卒業証書その他の公的文書に西暦を使用したことをもつて処分を行つた教育委員会の有無及び、あるとするならばその行政区域名を示されたい。
三 公的機関における元号使用の義務の有無と強制力について
1 一般に、国・地方公共団体またはその他の公的機関が元号を使用すべき憲法上の義務は存在せず、また元号使用を強制する法令は存在しないと考えるが、政府の見解を伺いたい。
2 政府は、元号法案の国会審議に際して、「公的な機関の手続なりあるいは届け出等に対しましては、行政の統一的な事務処理上ひとつ元号でお届けを願いたいという協力方はお願いをいたします。しかし、たつて自分は西暦でいきたいという方につきましては、今日までと同様に、併用で、自由な立場で届け出を願つてもこれを受理すると、そういう考えでおるわけでございます。」(一九七九年四月二七日、参議院本会議における三原朝雄国務大臣の答弁)、また、「従来、戸籍などの諸届けの用紙に、不動文字で「昭和」と、こういうことを刷り込んでおることは事実でございます。これは申請者に便宜を与える、便宜を図るというだけの趣旨のものでございまして、強制するとか拘束するとかという趣旨ではございません。……この辺につきましては誤解が起こらぬように、強制する、拘束するものではないという趣旨を十分徹底して、行き違いがないようにいたしたいと思つております。」(同、古井喜實国務大臣の答弁)、また、「現在の住民基本台帳、それから印鑑登録のそれらの様式は、いずれもこれは市町村が自主的な判断で定めておるわけでございますが、一般に元号が使用されておりますけれども、これはもう御承知のように従来からの慣行によつて行われ、協力を求めておる、強制するというものでないことは言うまでもございません。」(同、澁谷直藏国務大臣の答弁)、さらに「教科書検定における元号の取り扱いについても、従来から、年代の表示については、教科の目標、内容等に照らし、適切な方法がとられるよう指導している……。」(同、内藤誉三郎国務大臣の答弁)など、公的機関における元号の使用は、あくまで「便宜的」「慣行的」なものであり、したがつて「協力を求める」ことはあつても「強制するとか拘束する」ものではないと、繰り返し答弁している。今日もその立場、見解は不動であると解するが政府の見解を示されたい。
3 右の政府見解によつたとしても、卒業証書は卒業生本人に手渡されるものであつて、公的機関内に保存される一般の公的文書に比べ、年号表示の特定の様式が便宜上求められる度合いは極めて小さいはずである。また、卒業証書が西暦で記載されたとしても、教育上特別に、混乱や問題を惹起するとは考えられない。したがつて、卒業証書に元号の使用を義務づけあるいは強制する合理的理由、法的根拠は存在しないと考えるが、政府の見解を示されたい。
4 卒業証書の年号表示の様式について、たまたま学校長、教師、父母、生徒などの意見、思想、信条等が、教育委員会の期待するところと異なり、西暦が使用されたからといつて、それを強権の発動たる行政処分でもつて処罰するがごときは妥当でなく、元号に関する政府見解の趣旨にも反し、かえつて教育的効果を損なう措置であると考える。したがつて、年号表示について、かかる処分発令を許容するがごとき規則や指導は不適切であり、改廃されるべきだと考えるが、政府の見解を示されたい。
右質問する。
答弁書
https://www.sangiin.go.jp/japanese/joho1/kousei/syuisyo/108/touh/t108013.htm
答弁書第一三号
内閣参質一〇八第一三号
昭和六十二年(1987年)四月十日
内閣総理大臣 中曽根 康弘
参議院議長 藤田 正明 殿
参議院議員野田哲君提出公的機関における元号の使用に関する質問に対し、別紙答弁書を送付する。
参議院議員野田哲君提出公的機関における元号の使用に関する質問に対する答弁書
一について
広島県教育委員会からの説明によれば、次のとおりである。
広島県教育委員会においては、昭和三十七年から広島県教育委員会の公用文に関する規程で元号表示による書式を一般的に定め、事務処理を行つてきたところであるが、元号の使用は同和教育の推進を阻害するという理由から県立学校の卒業証書における年の表示について西暦を使用するよう教職員が校長に迫るという動きがあり、他方、教育委員会規則等で定められた個々の公用文の様式においては、必ずしもすべての公用文の年の表示方法が明確にはされていなかつたため、昭和六十二年一月、教育職員免許状に関する規則、広島県立高等学校学則施行細則など教育委員会規則等の一部改正を行い、個々の公用文の年の表示方法を元号表示とすることを明確にし、関係機関に対し周知を図るとともに、同年二月、県立学校長に対し、卒業証書における年の表示について前記規則等に基づく様式を遵守するよう指示文書を発した。
しかしながら、同年三月の県立学校の卒業式において、五十四校で前記規則等に定められた様式に反する卒業証書が交付された。
このため、広島県教育委員会は同年三月三十日付けで右五十四校の校長に対し、今後は法令等にのつとつた適正な職務の遂行に努めるよう文書訓告を行うとともに、監督責任者である教育長に対し戒告、教育部長及び高校教育課長に対し文書訓告を行つた。
二について
各教育委員会における公用文の年の表示方法等について、政府として特段の指導を行つたことはなく、また、今回の広島県教育委員会における処分についても特段の指導は行つていない。
なお、各教育委員会の実態について詳しくは承知していないが、他の公的機関と同様に、従来から年の表示方法には原則として元号を使用しているものと聞いており、県立学校に関する規則等で元号表示による卒業証書の様式を定めているのは、広島県を含め十二県と承知している。
また、都道府県教育委員会から受けている報告の中では、公用文における元号表示にかかわつて処分を行つた事例はない。
三について
1 国・地方公共団体等の公的機関が元号を使用すべき憲法上の義務はない。
また、現在、国・地方公共団体等の公的機関の内部において事務の統一的な処理のため元号の使用を義務づけるような規則等は別として、国民又は国・地方公共団体等の公的機関に対し、一般に元号の使用を強制する法令は存在しないと考える。
2 国・地方公共団体等の公的機関の事務については、従来から年の表示には原則として元号を使用することを慣行としてきている。したがつて、一般国民から公的機関への届出等においては、公務の統一的な処理のために、書類の年の表示には元号を用いるよう一般国民の協力を求めてきているが、このような考え方は今日においても変わりがない。
3及び4 公立学校の卒業証書は、当該学校の全課程を修了したことを公に証明する公文書であるが、教育委員会がその所管に属する公立学校の卒業証書に関し、年の表示方法を含めその様式を定めることについては、当該教育委員会の権限の範囲に属するものと考える。
また、教育委員会の規則等にその所管する学校の教職員が従うべきことは当然である。