中日新聞

中日新聞 2019年4月7日 朝刊

 五月一日に「平成」から「令和」へ改元される。役所の公文書といえば、和暦(元号)表記が通例だったが、改元を機に西暦表記を導入する動きが出ている。国の明確なルールがない中、「市民の分かりやすさを重視」と西暦との併記を進める自治体もあれば「改元を歓迎して元号で」と対応はまちまち。中部六県の主な自治体に状況を聞いた。
 内閣府によると、公文書の年表記についてルールはない。どう対応するかは自治体ごとに自由とされているため、今回の改元では判断が分かれている。
 改元を機に新たな対応をとったのが愛知県だ。今年一月十五日付の通知で、文書の発出日などを従来通り「元号を原則」としつつ、「本文中で期間や期限を表記する場合には西暦併記を可能」と決めた。
 「期間を表記する場合、平成や新元号が混在すると分かりにくい。県民の利便性と行政サービス向上のため併記を可能にした」と法務文書課の担当者は話す。ただ、実際の対応は文書を作成する課が判断する。通知後、併記がどれぐらい進んだかは不明だ。
 滋賀県彦根市は昨年十一月の通知で、これまでの「元号のみ」から「元号と西暦を原則併記」に変更した。「市民の分かりやすさを重視したため」と担当者は説明する。愛知県岡崎市も「原則元号」から、今年三月の通知で「場合によっては西暦を併記してもよい」と決めた。名古屋市はこれまでも「原則元号、必要な場合は西暦併記」としており、今後も続ける。
 三重県四日市市や長野市は混乱を避けるため、新元号への移行期とする五月前に限って一時的に西暦との併記とした。滋賀県は二〇〇一年、長野県は〇三年からと、早い段階で元号と西暦を併記している。
 一方で、通例の「元号表記のみ」を維持する自治体もある。皇室と縁が深い伊勢神宮への観光をPRする三重県は「県庁内も改元を歓迎し、引き続き元号を使うことは当然というムード。西暦使用は検討していない」。岐阜市、愛知県春日井市も西暦を導入する予定はないという。
 公文書の表記は役所への届け出や広報など市民生活に関わる部分も多い。名古屋市中区の会社員松本恭輝さん(24)は「不動産関係の仕事をしており、登記や築年数を調べる時に元号をまたぐと、ややこしい。年配の顧客からも西暦の方が分かりやすいと言われる」と西暦表記を求める。
 同市瑞穂区の五十代の主婦は「元号を使用することで親しみが持てるし、西暦だけだと日本らしさがなくなる」と、元号への愛着の声もあるが、同市港区の鈴木茂美さん(87)は「併記の方が何かと便利」と、年配者の間でも利便性から併記を求める声も多い。