地方自治体の 元号・西暦使用状況アンケートの結果

2021年2月14日日曜日

声明 地方自治体

元号で年を表記しようとする方法の「矛盾」あらわに!
「公文書に元号を使い続けることの是非」、真面目な議論開始はもう待ったなし!

地方自治体の元号・西暦使用状況アンケートの結果から。


 西暦表記を求める会では、2020年10月~12月に、全国の政令指定都市20市と東京都23区に対して、公文書における元号と西暦の使用状況についてのアンケートを行い、千葉市、新潟市、品川区、大田区をのぞく、39市区から回答を頂きました。(回答率90%)

 結果は、元号という、不定期にリセットされてしまう数字で「年」を表記しようとすることが持つ様々な矛盾がはっきり示されており、これまで元号使用の不合理を訴える声に対して、「伝統・慣行」という全く別次元の応答で押し切ってきた政府の逃げの対応がもはや持ちこたえられないことを示しています。

 今こそ、戦後何十年も問われ続けてきた、公文書の表記を原則「元号」とする、という政府のやりかたについて、冷静に、その是非の議論を開始することを私たちは呼びかけます。


質問は、追加質問を含めて、以下の内容で行いました。


1、各種窓口業務における、届出用紙の記入欄の年月日の表記はどうなっているか。

2、広報資料での年の表記はどうなっているか。

3、卒業証書での生年月日と発行年月日の表記はどうなっているか。

  また、日本国籍住民と外国籍住民の場合に違いがあるか。

4、外国籍住民に対する「国民健康保険証」の生年月日、発行年月日等はどのように表記しているか。

5、公文書等の年表記について内部規定があるか。あるとすればその内容はどのようなものか。

6、今後の年表記について、関係機関において議論されていることがあるか。

7、年表記について、国に対して意見があるか。


回答結果の集約一覧表(EXCEL)はこちらからダウンロード

各自治体の回答個票はこちらをクリック(PDF)


設問の選定は以下の視点から行いました。


《西暦使用が日常生活では一般的であるのに、国や自治体という公的機関が関わる場合のみ元号が登場するという二重性が支配する日本において》

①実際の住民との接点にある地方自治体がどのように対応しているのか。

②外国籍の住民が増加する中でその接点にある自治体はどのように対応しているのか。

③元号使用について自治体がどのように根拠付け、またどのようにその将来を考え、あるいは国に対してどのような意見を持っているのか。



結果から読みとれたこと

◎全体の基礎には国の方針に沿った、公文書における元号使用の「原則」がある。


◎同一市区内においても統一的な対応は必ずしも取られていないし、把握すら充分されていない。


◎卒業証書のように個人に関わる書類については個別の希望によって西暦表記にする自治体がある。


◎外国籍住民に対しては、卒業証書について日本籍住民と異なる取り扱いをして西暦使用を認める傾向が強いなど、元号が外国では意味をもたないこと、国内のみで通用していることが、反映されている。しかし、国民健康保険証などは日本人と同じく全て元号対応である。


◎多くの問題を抱えているにもかかわらず、今後の元号と西暦の使用方法について自治体としての明確な方針を立てようとしている自治体はほとんどなく、国に対しての提言も特にはなかった。


◎総括してみれば、「元号」使用が原則にあるが、市民との関係において、西暦を使用する範囲を各自治体で定めているのが現状である。


◎しかしその判断基準は、そもそも不定期にリセットされてしまう「元号」を年号として公文書に使用し続ける合理性自体がないことと、社会的に元号使用についての議論結果による合意がないために、徹底性と一貫性を持てないでおり、ある意味そこに自治体の「苦悩」も感じることができる。西暦使用を求める市民の声に十分対応しようとすれば、それに反対する市民の声も出てくる、あるいは国の事務との関係において独自に元号を西暦に変更できない、その板挟みの中で問題を先送りしている、と見ることもできる。


しかし、2019年5月1日に実施された前回の元号リセット(令和改元)前には新聞でも多く報道されたとおり、西暦使用をしている自治体は今回のアンケート対象自治体以外にも存在しており、少しずつ進んでいるようです。

また国も電磁データは西暦に統一する方向を正式に決めており(2019年3月行政基本情報データ連携モデル標準ガイドライン群)、政府内では公文書への西暦表記義務づけの検討も行われたと報道されていました(日本経済新聞2018年8月21日)。天皇という生身の身体に紐付けられてしまっている一世一元制である以上、その原理故に、未来の年は確定して表示できない、という致命的な欠陥があるために、マイナンバーカードの有効期限は西暦ですし、運転免許証の有効期限も、パブリックコメントでの組織的な反対運動によって元号併記にはなりましたが、西暦で表記するようになりました。

1月1日から12月31日迄という暦年に関わりなく任意の月日からリセットしてしまうような数字を、年の表示として公文書に使用し続けるという「世界で唯一」の国家・社会はあまりに非合理であり、いくら「慣行」や「伝統」という言葉で、その問題から逃げようとしても、その非合理性は解決されず残り続けます。


今回の自治体アンケートによって、元号を公文書に使い続けることの3つの矛盾が明らかになったと考えます。

①市民との矛盾。民間と政府で年の表示方法が二重性を持ってしまっている矛盾。

(アンケート結果:卒業証書、申請書類書式、広報資料での年の表記方法などで、利便性から発する市民の西暦使用要望の広がりと、あくまでも元号使用に固執する政府)

②外国籍住民との矛盾。元号が日本以外では全く通用しないことから派生する矛盾。

(アンケート結果:外国籍住民には日本国籍住民とは別に世界標準の紀年法を導入せざるを得なくなっている。)

③公文書に元号を使う不合理性を訴える意見とそれをめぐる議論を、慣行・伝統という全くすれ違う別の論理水準で押しつぶしてきてしまった(逃避し続けてきてしまった)ために、日本社会での合理性が損なわれ、ある意味での無気力が醸成されてきているという矛盾。

(アンケート結果:自治体の今後の方針や国への意見は皆無に等しい)


 何度でも繰り返さなくてはなりませんが、本質的な原因は、不定期にリセットされてしまう、すなわち、言い換えれば、生身の人間に紐付けられているために未来の年を原理的に表示できない、そのような数字である「元号」というもので年を表記して社会・国家を運営しようとすること自体の矛盾にあると言わざるを得ません。


 私たち「西暦表記を求める会」はこれまでも「すべての公文書に西暦表記を!」をスローガンに運動してきました。

 今回のアンケートの結果を受けて、元号のみを年の表記として行政が行われている日本社会の非合理を改善していく権利と義務のために、皆で考える事、それぞれの考えを述べあって、考えを深めていくこと、「元号を公文書に使い続けることの是非について」、真正面からの議論の開始を、強く、強く呼びかけます。

質問と回答用紙


「西暦表記を求める会」 地方自治体の元号使用に関するアンケート 回答用紙

貴 市/区名(          )担当部署/お名前(                )

電話番号(           )メールアドレス(                 ) 

※ご回答内容について、お問合せする場合がございます。連絡先の電話番号、メールアドレスをお願いします。 

※回答は該当する記号番号に○を付けてください。詳細付記の場合は空欄をご利用ください。


Ⅰ 住民への対応について

 1, 各種窓口業務における、届出用紙の記入欄には、
  A  年表記として予め元号のみを記載している。
 その場合 ① 西暦表記に訂正しても受け付ける。 ② あくまでも元号表記を求める。
  B  年表記に関しては空白:「    年」としている。

  C  元号と西暦を選択肢として、予め記載している。


 2,住民への広報資料では、
  A  元号のみで表記している。
  B  西暦のみで表記している。
  C  元号と西暦を併記している。


Ⅱ 外国籍住民への対応について

 1,「国民健康保険証」の生年月日、発行年月日等はどのように表記していますか。

 2,「卒業証書」の生年月日、発行年月日(卒業日) はどのように表記していますか。

 ※追加質問で日本国籍の場合の卒業証書についても回答を求めました。

 

Ⅲ 公文書等の年号表記について、内部規定がありますか。あるとすればその内容を御教示下さい。


Ⅳ 今後の年号の表記について、関係機関において議論されていることがあればお書き下さい。



Ⅴ 年号の表記について、国に対してご意見があればお書きください。


以上です。ありがとうございました。



アンケート後の注:Ⅲ,Ⅳ,Ⅴの設問中に「年号」という語が使われていましたが、一般的に「年号」は「元号」と同義として使われています。元号と西暦両方の使い方を尋ねる文脈でしたので、「年号」ではなく、「年表記」、「年の表記」という書き方のほうがより適切でしたが、設問の意味はご理解いただけたと思います。

回答の集約

1, 各種窓口業務における、届出用紙の記入欄の年表記方法

回答は選択肢を3つとして、

①予め元号を記載して「令和  年  月  日」などとしているか、

②何も記入せず、「   年  月  日」としているか、

③元号と西暦を選択肢として「西暦・令和   年  月  日」などと予め記載しているか、

 該当する選択肢に○を付けてもらう形式でした。しかし、同じ市区内でも統一されているわけではなく、この選択肢では回答できなかったことがわかりました。

 そこで回答は以下の様に分類しました。比率は回答いただいた39市区内での比率です。

① 年表記に関しては空白:「    年 月 日」としている。 = 12市区 30.8%

札幌市、仙台市、相模原市、千代田区、港区、新宿区、江東区、目黒区、世田谷区、中野区、北区、荒川区

② 混在している。=22市区 56.4%

さいたま市、横浜市、静岡市、浜松市、名古屋市、京都市、堺市、神戸市、岡山市、広島市、北九州市、福岡市、熊本市、中央区、文京区、台東区、墨田区、豊島区、板橋区、足立区、葛飾区、江戸川区

③ 元号のみ表記をしている。=3市区 7.7%

川崎市、渋谷区、杉並区

④ 不詳=2市区 =5.1%

大阪市、練馬区


 なお、元号を予め印刷した書式がある場合、その書式を使用する住民が西暦表記に訂正しても全ての市区でそのまま受け付けていました。 しかし福岡市は戸籍届の場合のみ「元号表記を求める」という回答文になっていました。これは、1979年6月9日 法務省民事局長通達「元号法の施行に伴う戸籍事務の取扱いについて」 にある、「 年の表示方法として西暦を用いて届出等がなされた場合においても、市区町村長はこれをそのまま受理する。」には反していることになります。

 住民が元号表記を使わず西暦で書類を提出してもそれを断らないという事は1979年の元号法制定以来、「だから国民には元号使用を強制してはいないのだ」、ということの根拠として、現在まで一貫して政府が説明してきたことです。自治体もそれに従っていることになります。

 しかし、紙に書かれた元号は抹消線で消すこともできますが、電子申請のフォーマットで、元号でしか入力できなくなっている場合(健康保険、年金など)は、政府が言う、「元号が令和に改められても,国民は,元号の使用について強制されるものではなく,元号,西暦を自由に使い分けることができるものである」(2019年 山根二郎弁護士らの元号差止請求事件における2019年9月2日付国側準備書面(1))という、元号法制定以来の言い分に明確に反しています。彼らがそのように主張するならば、全ての電子申請フォーマットにおいても、西暦で入力できるようにしなくてはならないはずです。

 今回自治体の電子フォーマットにおける書式については尋ねませんでしたが、自治体においても固定資産税の申告フォーマットで元号のみを選択肢にしている例(横浜市)を把握しております。


2, 住民への広報資料における表記

これも回答の選択肢として設定した選択肢には収まらず、混在している場合が多いので、回答は以下の6つに区分しました。また、広報紙の発行日付の表記と、本文中での年号表記が異なる場合も多く、各自治体の対応として一括して表現しづらい(ばらばらな)状況が特徴でした。

 なお、原則は元号表記だが「例外もある」、という回答の場合、「混在している」ではなく、原則のほうの「元号のみで表記」の回答例として分類しました。


① 元号のみで表記している。=5市区 12.8%

名古屋市、岡山市、渋谷区、杉並区、葛飾区、

② 西暦のみで表記している。=1市 2.6%

札幌市、

④ 元号と西暦を併記している。=16市区 41%

仙台市、京都市、広島市、北九州市、千代田区、中央区、文京区、江東区、目黒区、中野区、墨田区、豊島区、荒川区、練馬区、足立区、江戸川区

⑤ 混在している。=16市区  41%

さいたま市、横浜市、川崎市、相模原市、静岡市、浜松市、堺市、神戸市、福岡市、熊本市、港区、新宿区、台東区、世田谷区、北区、板橋区、

⑥ 不詳=1市 2.6%

大阪市



3,「卒業証書」の生年月日、発行年月日(卒業日)

日本国籍住民の卒業証書の場合(追加質問)

卒業証書は元号表記がベースにあるようですが、本人や保護者の希望によって西暦にする、という答えが特徴的です。

また、学校長の判断に任されている市区も10%ありました。

1987年3月、広島県教育委員会が卒業証書の発行年月日を西暦で表記して交付した県内五十四校の県立高等学校及び養護・ろう学校の学校長に対し処分を行った事と比較すると、遅々たるあゆみの中で、元号使用の不合理性への認識は広がっているとみることもできます。


①西暦表記(本人の希望による)=2区  5.1%

江戸川区(希望により西暦)、墨田区(希望により西暦可)

②生年は西暦(選択含む)、発行日は元号=7市区 17.9%

神戸市(生年選択可)、福岡市(生年選択)、豊島区(生年は選択)、江東区(希望により生年西暦)、世田谷区(希望により生年西暦)、杉並区(希望により生年西暦)、板橋区(希望により生年西暦)

③学校長判断 =4市区 10.3%

堺市(原則元号、西暦可)、中央区、北区、荒川区

④元号表記 =17市区 43.6%

仙台市、さいたま市、横浜市、相模原市(教委発行分。各学校発行分は把握せず)、浜松市、名古屋市、京都市、岡山市、広島市、北九州市、熊本市、千代田区、文京区、台東区、渋谷区、中野区、葛飾区

⑤未回答及び不詳 =9市区 23.1%

札幌市、川崎市、静岡市、大阪市、港区、新宿区、目黒区、練馬区、足立区、


外国籍住民の卒業証書の場合

 京都市と広島市は、日本国籍者については生年月日・発行日共に元号表記でしたが、外国籍者については生年月日を原則西暦表記としています。また、他市区をみても、日本国籍者に比べて外国籍者への西暦使用を認めている市区が多くなっています。

これは、外国籍住民に元号を強いることの矛盾の表れです。

①西暦表記(本人・保護者の希望による西暦選択可を含む) =8市区 20.5%

札幌市(大学のみ、小中は元号)、京都市(生年原則西暦、発行日は希望によりそれぞれの国の暦年表示)、千代田区(原則元号、西暦可)、港区(希望により西暦)、練馬区(希望により西暦)、江戸川区(希望により元号)、葛飾区(希望により西暦)、墨田区(希望により西暦可)

②生年は西暦(本人・保護者の希望による西暦選択可を含む)、発行日は元号 =11市区 28.2%

横浜市、名古屋市(生年選択可)、 神戸市(生年選択可)、広島市(生年原則西暦)、福岡市(希望で生年西暦)、文京区(生年元号も可)、豊島区(生年は選択)、江東区(希望により生年西暦)、世田谷区(希望により生年西暦)、杉並区(希望により生年西暦)、板橋区(希望により生年西暦)

③学校長判断 = 6市区 15.4%

川崎市、中央区、目黒区(希望により書き分け)、北区、荒川区、足立区

④元号表記 = 13市区 33.3%

仙台市、さいたま市、相模原市(教委発行分。各学校発行分は把握せず)、静岡市、浜松市、大阪市(生年不詳、発行元号)、岡山市、北九州市、熊本市、新宿区、台東区、渋谷区、中野区

⑤未回答及び不詳 =1市区 2.6%

大阪市



4、外国籍住民へ、「国民健康保険証」の生年月日、発行年月日等はどのように表記していますか。

 すべての自治体で2項目とも元号表示でした


5, 公文書等の年号表記について、内部規定がありますか。あるとすればその内容を御教示下さい。

①回答記入なし、内部規定はない、もしくは、ないが元号を原則としている。=23市区 59.0%

札幌市、仙台市、横浜市、相模原市、浜松市、大阪市、神戸市、岡山市、広島市、福岡市、千代田区、中央区、港区、新宿区、文京区、台東区、墨田区、江東区、目黒区、豊島区、北区、板橋区、葛飾区


②ある =16市区 41.0%

(規定に限らず、訓令、通知、文書様式の例示、事務マニュアル、文書作成ハンドブック的なものまで含んで、「ある」に分類しました。「規定」は「ない」と答えた自治体も、文書作成ハンドブック的なものなら「ある」可能性があります。)

さいたま市、川崎市、静岡市、名古屋市、京都市、堺市、北九州市、熊本市、世田谷区、渋谷区、中野区、杉並区、荒川区、練馬区、足立区、江戸川区

この中で、明確に「規定」として定めているのは、川崎市と静岡市のみでした。


 

6, 今後の年号の表記について、関係機関において議論されていることがあればお書き下さい。

  港区の「今後、表記方法を整理していきます」という回答以外すべて、「なし」、または記入なしでした。



7, 年号の表記について、国に対してご意見があればお書きください。

   すべての自治体で、「なし」、または記入なしでした。


以上


※「和暦」という言い方は「元号」使用の問題点を隠してしまう。

なお、回答の中には「元号」を「和暦」という言葉で表現している記述もありましたが、この言い方は元号の本質的な問題をずらしてしまう効果を持っています。「和」と言い換えることによって、和・洋・中華のような単なる固有性・独自性にすぎないという主張に接続し、だから元号使用もそれらの個性を尊重しているだけだ、と言うことになるのですが、元号の問題は不定期にリセットされてしまうという点であり、ある起点を設定してリセットされることのない数字を重ねていく、西暦、仏暦(タイ)、民国紀元(台湾)、主体暦(北朝鮮)などの紀年法とは全く異なる性格を持っており、そのような年の数え方で国家・社会の運営をしようとすること自体への評価が焦点になっているのです。