鉄道切符における「年の表記」の西暦化

2022年11月23日水曜日

元号表記ピックアップ 生活の中で

  2019年5月の元号リセット時には多くの民間企業でも年の表記を西暦化しました。

 一方、「公文書」は頑なに元号を死守、いくつか伝えられた公文書の西暦化への動きもその後の議論は無く、2022年現在消え去ってしまったかのようです。

 鉄道各社が西暦化した理由は、コスト面、合理性、外国人対応、等、至極もっともなものです。一方で元号使用から一歩も踏み出せない「公」の元号使用の理由は、何十年間も「慣行・伝統」を反復するのみです。このように、「公」(慣行)と「民間」(合理性)とが分裂している社会というのは、結局、社会・国家を自らの力で合理的に編成(変成)していくものであるとは考えていない、あるいは「公」というものを自らが作り上げていくものだと信じていない、という事を意味してはいないでしょうか。


 あらためて、当時の鉄道切符の西暦化の動きを各種報道からふりかえります。


首都圏鉄道も 西暦化加速 改元控え JR東完了 外国人対応、コスト削減狙う 記念切符・地方鉄道は「元号派」

《JR東日本は昨年(2017年)12月から今年(2018年)3月にかけ、切符の西暦表記への切り替え作業を完了した。切符の左隅に書いてある「30」の数字は「2018」に。これに伴い、国鉄時代から引き継いできた旅客営業規則の切符の表示例からも「平成」の部分を削除した。》

《首都圏では改元時はすべての大手鉄道の切符が西暦表記に統一されることになりそうだ。》

東京新聞 2018/05/22 夕刊

 

② 切符から和暦が消えた 関西の鉄道会社、訪日客増加が後押し

(2019年)《5月1日から「令和」に改元されるのを前に、関西の各鉄道会社が券売機で発券する乗車券から和暦が消えていた。以前の年表記は元号の年数だったが、すでに西暦表記に切り替え。改元に伴うシステムトラブルの回避が大きな要因のひとつだが、それだけではない。2025年の大阪・関西万博や20年東京五輪・パラリンピックを控え、増加する訪日外国人客が和暦に戸惑わないようにする配慮もあった。》《すでに関西の主要鉄道会社では、乗車券の和暦表記はなくなっていた。》

sankeiBiz ×iZa 2019/4/9


上記の2つの記事による各社の西暦化状況は以下のとおり

JR西日本:乗車券は2018年2月から。特急券などは2018年10月から西暦化。

近畿日本鉄道:乗車券は1988年以前から。回数券、定期券は2016年から西暦化。

南海電気鉄道:券売機更新に合わせて2015年から西暦化。

京阪電気鉄道:券売機更新に合わせて2013年から西暦化。

大阪メトロ(大阪市高速電気軌道):2018年民営化により「大阪市交通局」から「大阪地下鉄」への券面変更に合わせて西暦化。

阪急電鉄:2019年4月時点で既に西暦化完了。

阪神電気鉄道:2019年4月時点で既に西暦化完了。

JR東日本:2018年3月に西暦化完了。

東京メトロ:2018年5月(記事時点)で西暦化完了。

東急電鉄:2018年5月(記事時点)で西暦化完了。

東武鉄道:2018年5月(記事時点)で西暦化完了。

西武鉄道:2018年5月(記事時点)で西暦化完了。

京急電鉄:2018年5月(記事時点)で西暦化完了。

小田急電鉄:2018年5月(記事時点)で西暦化完了。

相模鉄道:2018年5月(記事時点)で西暦化完了。

東京都交通局:2018年5月(記事時点)で西暦化進行中。

京王電鉄:2018年5月(記事時点)で西暦化進行中。

京成電鉄:2018年5月(記事時点)で西暦化進行中。


上信電鉄:システム改修、新元号化方針(他社乗り入れ無し)

銚子電鉄:ゴム印なので元号表記継続する可能性高い。


その他、金券ショップのホームページに株主優待券の券面が表示されていた上記以外の各社の状況を確認してみました。

大阪モノレール:西暦

神奈川中央交通:西暦

神戸電鉄:西暦

山陽電鉄:西暦

神姫バス:西暦

秩父鉄道:西暦

名古屋鉄道(名鉄) :西暦

富士急行:西暦

三重交通グループ:元号


JRの通学証明書等の西暦化は今回の元号リセット(2019年5月)の準備として前年から行われ、JRグループは以下の様な通知を関係箇所にだしています。

http://www.pref.osaka.lg.jp/attach/6686/00296654/monka_tuuti_2040.pdf

上記リンク切れのため以下から確認してください。(2024/08/14)

http://web.archive.org/web/20210927013922/http://www.pref.osaka.lg.jp/attach/6686/00296654/monka_tuuti_2040.pdf


文科省から各大学や都道府県の関係箇所への通知  2018年6月13日

旅客営業規則等に定める通学証明書等の様式変更について(通知)
このことについて、J Rグループ運賃制度担当課長より別紙のとおり周知依頼がありましたので、事務担当者及び学生・生徒等へ周知いただくとともに、通学証明書等の発行に際しては、適切に御対応いただくようお願いします。


JRグループは文科省に対して、以下の様に依頼しています。

インバウンドのお客さまへの対応や2019 年5月の元号改元が決定したことを機会として、2018 年3月17 日より順次旅客営業規則等に定める乗車券類の様式を西暦表示に変更いたします。それに伴いまして、通学証明書、割引証等の各様式についても、「平成」の表示を削除いたします。
趣旨
現行、旅客営業規則等において、通学証明書、割引証等の各様式に「平成」の表示を定めています。「平成」を削除する改正を行うことにより、原則西暦表示といたします。なお、当面の間和暦表示(現行の様式)でも対応可能とします。

記載方法として以下の様に述べています。

⑴ 学生証や通学定期乗車券購入兼用証明書等における発行年月日、有効期間等の記載は、可能な限り西暦表示(4桁)としていただきますようお願いいたします。
⑵ ⑴に拠れない場合は、引き続き和暦表示(元号+2桁)とすることも可能です。改元後も新元号による和暦表示は可能ですが、可能な限り西暦表示への
移行をお願いします。

現在はこのようなJRグループですが、この30年前、1989年の元号リセット時点では、通学証明書に元号を強いることもありました。

 JR東日本 通学証明書に元号強いる 

定期券を購入するさいに鉄道会社に提出する通学証明書の年月日について、ある都立高校が「西暦を使って発行していいか」と」JR東日本に問い合わせたところ、「規則で元号を使うことが決まっているので西暦では困ります」と断られた。

1989年1月25日朝日新聞

 この記事によれば、国鉄分割民営化から2年、当時のJR東日本は元号表記しか認めない理由とその正当化を以下の様に述べていました。

①国鉄時代から引き継いだ旅客営業規則が定める通学証明書の書式には昭和が使われているので、そのまま平成を使うことにしている。

②定期券の利用者は割引の恩恵を受けるのだから従うべきである。わたしは元号はいやだ、というなら、利益は受けられない。:JR東日本東京圏運行本部。

③「元号と西暦を併用すると混乱を招きかねない。元号を使うか、西暦にするか、の選択は各企業の自由だから問題ない。:JR東日本本社。


 この30年後、鉄道各社は西暦表記に切り替えることになるのですが、西暦化の理由として挙げたのは、国際化や合理性でした。
 30年前の、「前例踏襲」という無気力、「合理性によって自らの行動を変化させていく決意を持てない弱々しさ」、そのような「自己」を正当化するためおこなってしまう「異論への威嚇」の空虚さ、それらはいまだ「公文書を西暦表記にする」という決断ができない、現在の日本政府の姿でもあります。そしてそれを変えていくのは私たち自身です。