卒業証書の「年の表記」について

2023年2月1日水曜日

生活の中で

ある高校の先生から当会に以下の様な照会を頂きました。

「卒業証書の表記について数年前から記載してきた西暦での発行を希望するかどうかのチェックが、今年度から削除された。[令和」への改元が問題になった頃追加された文だったと思うが、今年度の担当と管理職が、これは外国籍生徒への対応であり、今年度は不要だ、と判断した模様。安易な判断に怒りを覚える。西暦での発行希望チェックの追加、削除に法的な根拠は有るか」


 追加にも削除にも、法的な根拠は全くありません。
 卒業証書については、教育委員会がその書式を規定していれば、公務員はそれに従わなくてはならない、という理屈で処分された事例がありますが、発行者が各学校の校長なのだから、教育委員会でそのような統一的な規定をするのはいかがなものか、規定していないなら、当然発行者である各学校長の判断に任されるという理屈もあり、実際、会が行った自治体アンケートでも校長に任されているという回答が幾つもありました。
 相談の事例の場合、前年までは西暦か元号か選べるようになっていたのですから、学校長の判断で決定できる条件だったことになります。


以下の様な返信をしました。

 ご連絡ありがとうございました。

政府は1979年の元号法制定時から一貫して、元号の使用を国民に義務づけた法令は存在せず、国民は元号・西暦を自由に使用できる、戸籍の届も申請書類も西暦で表記されていても受け付けると言ってきました。

■卒業証書については、1987年に出された質問主意書とその回答があり、当会ブログの資料集にも収録していますので、ご覧下さい。

https://seirekiheiyo.blogspot.com/p/blog-page_72.html
https://seirekiheiyo.blogspot.com/p/blog-page_11.html

この中で政府は、「公立学校の卒業証書は、当該学校の全課程を修了したことを公に証明する公文書であるが、教育委員会がその所管に属する公立学校の卒業証書に関し、年の表示方法を含めその様式を定めることについては、当該教育委員会の権限の範囲に属するものと考える。

また、教育委員会の規則等にその所管する学校の教職員が従うべきことは当然である。」と言っていました。


■また、昨年当会で行った政令指定都市と都内23区に行ったアンケートでは卒業証書の年の表記についても回答を得ています。

https://seirekiheiyo.blogspot.com/2021/02/blog-post.html

傾向としては、外国籍のみではなく、希望者には西暦で発行(生年月日のみ、あるいは発行年も)というパターンが増加しているのかもしれませんが、時系列の調査、データについては把握していません。


■個人的な経験としては、横浜市立小学校では生年月日のみ元号か西暦化のアンケートがありましたが、同じ学区の中学校ではアンケートも無く元号。同じ中学校でPTA文書の西暦化を提案したら、会長から、学校長に聞いたら元号使用だと言われましたので、御了承下さい、というなんとも情けない回答が来ました。卒業証書の年の表記はかなり学校長に任されている感を受けました。

学校の中で議論できれば良いのですが、現在、職員会議は単なる情報伝達の場になってしまっているとも聞きますので、色々と困難があるのだろうと推察いたします。


■なお、逆の立場からですが、2014年には滋賀県立大学で発行された西暦表記の卒業証書・学位記をめぐり、元号表記のものを求めて、裁判が起こされました。文科大臣が学校教育法15条に基づく改善勧告や変更命令を出すことと、行政事件訴訟法に基づき卒業証書・学位記の再交付を求めていましたが、原告の主張は年数表記が訂正された卒業証書の再交付という単なる事実行為を求めるに過ぎず、抗告訴訟の対象となる処分の義務付けを求めるものではないとして却下され、2017年に最高裁で確定したようです。


■2019年の令和リセットの前段では、政府内にも公文書の西暦表記義務化の意見があったようですし、電磁ファイルの形式では西暦を使うこともすでに決定されており、紙に印刷するときに元号にもどすという、驚くべき方針が当時報道されていました。

以上はすべてブログ内にも掲載しております。


■いずれにせよ、「元号」について生徒たちと議論をして頂いたら面白いのではないかと思います。新学習指導要領では「主体的・対話的で深い学び」を目標としているそうですので、具体的な生活の中で西暦と元号の扱われ方の例を調べながら、不定期にリセットされ、原理的に未来を表示できない数字で私たちの社会が構成されていることが適切かどうか議論してみたらどうだろうか、などと思います。


今後とも情報やご意見をお寄せ下さい。

ありがとうございました。